木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2010年01月

珍しく外出

きのうのことだけれど。
あれこれ、考えて待ってなお悩んで、用件を保持したままで、
余りにいらつくのでついに全てを実行すべく。
外出宣言をする。
ジーンズに古い黒皮の上着、濃い鴇色のチョッキにまるで合わないマフラーを
ポリエステル二重の暖かさを良しとして
ラフにまきつける。
寒いな。風が冷たい。茶色のいつもの小さなブーツ,あんなに高かったのにたいしたことない。
ファーの手袋はポケットにあった。ついでにバスの回数券も入っていたので一安心。
鴇色のリュックサック,結構重たいが腰ごと脚を蹴出して歩もう。

サティに入る。
頭が寒いので毛糸の帽子を買おうと思って。安売りだ,デフレだ。中国製だ。
明るいレンガ色のを500円で買う。レジで袋はいるか、と尋ねられる。その時は考えなかったが,最近袋を使わないと2円引いてくれるのだ。
それはともかく。
すぐかぶるので値札を切って下さいと、50代くらいの店員に頼む。
値札を留めてあるプラスチックの鍵型のものが毛糸に巻き付かれている。
どうします?と尋ねるので、糸ごと切っていいです、と鷹揚に言う。パチン。
OK、被って電車に乗る。
以下,切りがないのでやめよう。

*不細工な八つ手の花色今は好きチビがそこから出てきてニャアと
*満月が火星と並んであわあわときのうはあんなに怒ってたくせに
*北国の友のメールは凍えてる夏のプランでも立てなきゃ悲しい

タイトルを少し変えた

何か書こうかな、と思ったが、頭の中に何もない。空っぽだ。
いくつかの失敗談はある。
大事件もあった。
弟が膵臓がんに侵され、大手術から生還した。
体のなかが空っぽになった。膵臓の周辺臓器をごっそり取ったのだ。
それでも、摘出したということは、末期ではなかったということ。
長い手術の間,秘かに祈った。苦しんで死ぬのなら,いっそ手術中に連れて行って下さい、と。

夏の終わり、ベランダに長いこと大きな巣を作っていた蜘蛛の夫婦を(夫は交替した)
とうとう殺した。小さな蜘蛛がたくさん溢れることの恐怖に駆られたからである。

今日夕刊に、思いがけないアイデアのコラム記事を読んだ。
たとえばバッハと松尾芭蕉は,10年間同じ時間に生きていた。
  あら海や佐渡によこたふ天の川
  雲とへだつ友かや雁の生き別れ
この句に関してあれこれ書いてあったが、まずはこの事実に遭遇の幸運。

で、ともに過ごした蜘蛛の夫婦に毒を吹きかけた。
するすると降りてきた、地面に落ちていかにも苦し気に断末魔のさまを見せた。
恐ろしい姿だ。不自然に丸まってしまった。
死は異様だ。
小学生の1年頃、蟻を次々に潰した、何の理由もなかった。みんなで珍しくてやった。
しばらくして、自らその意味にきづいた。

*ときに死と老いらく浮かぶ何せむや壊れても行く有森裕子
*わが弱さ突貫出来ぬ弱虫のぐずりてばかり夢追ひ止まず
*結局は憑かれ浮かれて子がほしく誰の命(めい)なる恋の道行
*殺さずに生きられもせずこの命あたら連鎖すほらまた消えた

心象拝借、という短歌の試み

短歌を、というか31文字の短詩形を10年以上作ってきたけれども,
いつも自分本位で、ひとには理解されにくい、ある時は感情過多、ある時は格言風,ある時は理屈っぽい。
そう言う、「短歌」とはほど遠いところから動けずに、仲間入りできないままである。

今年になってふと思いついたのが、他の人の短歌の真似である。
心象を拝借して、自分なりのの言葉と表現で短歌を新たに作ってみた。
意味がずれたりもするが、けっこう楽しく作歌できたのには驚いた。
悩ましいのは、これが私の短歌としては認められないのかもしれないことだ。

ともかく結果だけを並べてみよう。
自分なら思いつかないような心象を与えられているのだ。面白いに決まっているよな。

:例会に遅れし理由は他にあるも悪魔の如き赤信号め
:頬杖の柔き手触りほっこりと花を待ちつつベランダに凭(よ)る
:遅れ咲く桜ありしが夜を通し散りつづけたりひとり美し
:ゆくりなく汽車に遅れて小夜の駅いまはいづこか白雪の奥
:夜十時アイス舐めつつ人影のかりそめの夏最北の街
:一刻は二時間であり寺任せドンが鳴るときゃ昼飯だ
:一年をえ別れずに引きずりし夢が二人を別れさせたり

謹賀新年、2010年も4日目

明けましておめでとうございます。

食べること,世話をすること,年賀状対応、少しPC生活、などに打ち過ぎる日々である。
松村英一歌集をぽつぽつと読む。
この歌の流れが私の身にしみ込めば、などと都合のいいことを。

大晦日の12時すぎに、母の車いすを押して駐車場に出て空を仰いだ。
月食を伴った満月だとはきいていたが、まるで太陽のような月光であった。
しかもその高さときたら。寝てみなければ首も折れそうなほどの中天に
これでもか、と輝いている月。
オリオン座もその南でかすんでいた。
ところで最近の冬空で知ったこと、オリオン座の左上の星は赤く,右下のは青い。
月の動き,惑星の動き、3次元で考えるのが苦手なのでしゃくに触る程理解不能。

*あらたまの望の月とて大量の日輪を受く首も折れよと
*エンゼルの羽根か広葉の護るものダチュラの莟五枚にひとつ

年末年始の寒気でダチュラあるいはエンジェルトランペットも葉も莟もしなびてしまった。
枝を切っておくべきだった。
ギャラリー
  • 遂にここまで来てしまった 2023年より(4)『77歳の夏至まで』~~「憂き世」「思い見る世」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(6)『76歳の夏至まで』〜〜「強制終了」「神との友情」「一網打尽」「対消滅」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(3)『76歳の春彼岸まで』~~ 「終焉の気配」「春の気配ある」「かくりみの気配」
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(2)『76歳の春彼岸まで』~~「希望のころ」「核の脅し」
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