木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2010年09月

夏から秋へ、今年の移ろい

延々と続いた炎暑のあと、
ある朝突然の冷気が肌に鮮やかに来る。
新しいわたくしが生まれたかのよう。
しかしそれは一時の感覚の迷いだ。
日常はゆっくりとたゆみなく歩んで行く。
少しの陰影の濃淡を揺らしながら。

   **********
終はりへと進むひと日を秒針の動きのむしろ不思議にてある

平壌に夾竹桃とかんな燃え夏の命の引揚げ列車

このまろき生物園の百日紅ぐいと伸ばす手漆黒金襴

風も居て花も笑顔も揃ひてし友の写真の彼岸の旅路 

隣家よりいつか来たりしコスモスの移ろひ咲きて去年までの縁

状況説明付きの短歌その2

イメージ 1

ある知人、80歳を過ぎてなお短歌を日々詠まれる男性、かくありたいものと日頃思っています。
ところで一昨日のこの方の記載に添えられた写真には、見事なあしながおじさんの影が写してありました。
しかもそれは早朝の朝日を背にして自分を撮影されたのです。帽子を被った頭は5メートルもさきに小さく映っていて、面白いったらありません。

「なお君とともに歩まむ日々笑みてあしながおじさん朝日と戯る」

ここで君と生きる、と言ったのは実はこの方には第2の?人生を共に過ごす方がいらっしゃるのです。

少しメートルと関連して:

「ケーキ屋に三メートルもの向日葵が甘党たちを風に見下ろす」

     ***********

うたかたの青色失せぬ露草はより濃くなりて日差しに別る

状況説明付きの短歌その1

イメージ 1

末っ子がまだ喃語しか話さなかったころ、寝付きの悪い子だったので毎晩寝かせつけるのに一苦労だった。といっても機嫌が悪いのではなく、母親のお話や歌を楽し気に聞いていたのだ。
そんなことが続いたある日、いつもの「サッちゃんはねさちこというんだほんとはね、だけどちっちゃいから自分のことサッちゃんて言うんだよ、おかしいなサッちゃん」と歌い聞かしていた。すると語尾のね~、な、のところで突然に唱和したのである。正しく、来るべき場所で。
その後しばらくして、よく遊んでいたおもちゃで穴に棒を差し込むのがあったのだが、いつものように遊んでいると、急にはっきりと「あな!」と発音した。おかしな子だった。

夜ごと聴く「サッちゃんはね」の唄「ね」と「な」のみ遂に歌ひきリズム正しく

    **********

秋澄むやたれかが弦を爪弾きて雨の翌日咲くたますだれ

山梨県への旅の歌

イメージ 1

ぼんやりとしか意識していなかったのだが、日本の戦後文学には、相反する希求がぶつかりあっていたのだそうだ。
ひとつは、戦前に失敗した近代文学をやり直そうと言う19世紀文学的側面
もうひとつは、1945年以降の、近代文学を批判する20世紀文学的な側面
こんな近代文学の独特な屈折は、21世紀に入り、ようやくその曖昧さも限界に近づいている。
そのことは、たとえば語り手の独創的なあり方にみることができる。(例:絲山明子)
それは近代文学的な語り手が20世紀で一度「死んで」いるからこそ可能なのである。
自分の話を語りたい人々がいて、読み手も私小説だと思ってしまうのが通常であるが、
絲山明子の語り手は「幽霊」のように主人公に憑きしたがう。

これがどういうことなのか、またおぼろげにしかわからないが。

    *********
中津川へ小川の数増ゆ白々としぶきの息吹耳詰まりゆく

案山子居て早稲田を走るコンバイン木曽川かただ岩を敷く

夏緑人家の隙間林道の小暗く誘ふ深山への口

塩尻になどてかひとり佇ち待てばつばくろとてふ低く飛び交ふ

空かけて大き虹見しきのふゆえ今日かく夏の山と大雲

甲州へ手荷物ひとつ身めぐりを小さき限りにただ歌と生く

橋三つ南アルプス縦に見て山峡三つをスックリ跨ぐ

甲府から南に下る左窓群馬の山か白雲湧き出づ

娘っこが駆け落ちせむと家出して捨てられしごと自由の宿り

湯の花の臭気も良きか民宿は葡萄畑に沿う中央線

天下の嶮箱根の山は足駄がけ堂々唄ふ墨絵思ひつ

わづかなる音に縛られ歌とする行ひおかしと寝転ぶ畳

こんなにも羽がはえたる母として子たちに送る濃い葡萄色

幾万の女性の歌ふ充たしたき不定の器ひと掬ひずつ

一人旅終えて家事する新しき心に今も異郷の眺め
ギャラリー
  • 遂にここまで来てしまった 2023年より(4)『77歳の夏至まで』~~「憂き世」「思い見る世」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(6)『76歳の夏至まで』〜〜「強制終了」「神との友情」「一網打尽」「対消滅」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(3)『76歳の春彼岸まで』~~ 「終焉の気配」「春の気配ある」「かくりみの気配」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(3)『76歳の春彼岸まで』~~ 「終焉の気配」「春の気配ある」「かくりみの気配」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(2)『76歳の春彼岸まで』~~「希望のころ」「核の脅し」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(2)『76歳の春彼岸まで』~~「希望のころ」「核の脅し」
最新記事
アーカイブ
カテゴリー
  • ライブドアブログ