木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2012年09月

2009年より 「箱根八里」 「自然と人間」   「雑念」

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   「箱根八里」

霧と靄箱根八里に雨降りてひとりの旅は明けもやらずに

仮初めに巡り合ひたる旅宿のひとの言葉のわが核となる

夕光の慰めの手が薄雲を富士にかき寄すたれの描くや

東雲(しののめ)の囀りゆかし花追ひてのちは夕星(ゆうづつ)待ちて寝付かむ

嵐来て見事なるべき花房の夭折のごと藤は崩れつ

抜きん出て悲しみも美も感じたる夭折の子に敢闘賞を



   「自然と人間」

かへるでと西洋杉の枝先は園(その)への扉遂に触れ合ふ

年毎に切らるるもなほ楠の葉の頬紅めきて諦めず萌ゆ

遠山の斜面に散れる蜘蛛の子の脚めくショベルカー緑を喰らふ

押す弓手(ゆんで)二の矢たばさみ引く弦は自然(じねん)離るる即ちの音

巨大なる眼をわが持てば宇宙すら水晶体か雪の結晶



   「雑念」

起動して多分ダメだと思へども真昼眩しみ言葉待ち居つ

群れながらも上には上を狙ふ性(さが)アイドル担ぐ歓声も性か

苦しんで生まれ苦しみ死なしめるこのいたづらを為せしはたれ

敗戦のあとの全てを生き越してこの顔になほ己れの弱き

要りさうに思へばこそのガラクタに付き合ふ所詮落花の時まで

2009年より 「桜列島」 「小さな感慨を」 

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   「桜列島」

三月の高き航路を三日月の舟は渡れりはや西岸に

鷺ひとつ銀の翼をはためかせ社の池へ飛ぶ世は桜

雨となる桜列島一年のハイライト終え濡るるも恵み

天国に程遠き世に桜降る新芽の彼方の揚雲雀舞ふ

ワイワイとお祭り騒ぎ雲雀らのとことん陽気「あしたは七時」

水と日と時の成したるこの幹の記憶深きをわが抱きてみる



   「小さな感慨を」

感慨のささやかにして消ぬべくを詞に拠りてわがひとつ置く

餌を前に連れを呼ぶらし高鳴きて順位を待つや鵯ホバリングす

野良のチビ赤き首輪をつけられて何年生きしかはねられてをり

朝刊をバサリと閉ぢぬイチローの笑顔混ざれる交々の世を

日々語る米寿の母の逸話にはその母の愛食に溢るる

寺子屋はいろはにほへと読み書きのほとほと深き始まりの音

2009年より 「美しきもの」 「ひととひと」  「多忙な鳥たち」

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   「美しきもの」

白蓮の数多詠まるをわが見れば手袋さつと敬礼するかに

存分に張りし枝先百合の樹のかかぐる証その名の由来

しろがねの富士の高嶺の片側は初々しくも肌へ雲間に

鳥となり桂離宮を眺めては素なる美の夢蛇のカメラに



   「ひととひと」

遠き日に我も母なり指さして記号を学ぶ幼の仕草

街往けば堪え得ぬ記憶おちこちに憤怒の形相または泣きつつ

手の甲の老い訝しむ明日へのわが好奇心皺みもせぬに

ネット界に隣る人無く彷徨ひて求めらるるを求むる吾か

子を祀るサイトを訪ねその魂(たま)のいるを見たりと言ひくれし人



   「多忙な鳥たち」

うた鳥は二月祝日生業(なりわい)に空賑はせてわが捗らず

富士川を渡る列車に追ひ越され棒をくわへて黒き鳥往く

鳴き声も飛形も空を切り裂くに鵯(ひよ)も番(つがい)はひそと囁く

眠るがに俯きをりしキビタキがヒヨの響くにはっと天を向く

花を食べ上手に剪定せしあとの蕾の出るやまたヒヨの食ぶ

2009年より 「光」 「日常と非日常」 

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   「光」

我を見よこの光をと金星の傾ぶく頃の花びら月夜

飾り置く処も無きに花束の隈なく照れるわが定年日

駆け上がる駅の階段ワサワサと光りの中へ消え逝きし影

光すら余れるエナジー言い聞かし言い聞かしつつ磨く廚辺

朝光(あさかげ)に並べ置かれし玉露の末枯(すが)れし萱(かや)を麗しふす



   「日常と非日常」

理由無き夜の不安を凌ぎえて朝には呻く悔ひの数多に

花博の暦をかけて十年を月ごと飽かずにめくる悲しみ

空なかに色厳めしき松毬の清く正しくうろこを重ぬ


如月のひと日のみ聞く姿見ぬ天女の横笛試し鳴きから ==名は不明

珍しき嘴白き鳥梅の枝をひらひら蝶に似てかひくぐる ==カワラヒワ

戦きてわが見し彼は堂入りと回峰行を経てのち如何に ==難行を果たしたると聞く

救済を世に約したる人ありてイバラの冠父は泣かぬか

青充つる頭上に白き真円(しんえん)の降臨といふUFOありぬ

2009年より 「暦は新年」 「新春のことり」

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   「暦は新年」

忘れまじとふ瞳して聴きくれし吾子の居りしをこの卓の横

亡き父の生日に子の逝きしこと偶然にあれ大切に思ふ

この旅は迷宮なればなるがまま骨をさっぱり晒す桜木

わが病めば治すべきかは死ぬ権利とふ言葉ふと新鮮な

新年の事始めとてめでたくも救急車呼ぶ骨もろき母



   「新春のことり」

氷雨降る佳き新年にペチュニアの花びら旨しヒヨの訪れ

彫像と化してわが見る窓越しの黄のカランコエひよを養ふ

公園に向かふ童の四、五人とすれ違ひつつ群雀かと

新年の歌拾はむとすればもう窓に小鳥の贈られてをり

つと辻へ出でし瞬間ムクドリか影飛びのきてわが疎まるる
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