木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2012年10月

2008年より  「晩秋の赤」 「寒空」

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   「晩秋の赤」

鳥影を休ませをりし枯れ松の先端落ちぬ墓所の辺りに

紅葉狩り滝道登る母の背の美しかりき容赦なき老ひ

落葉道 無限の彩(いろど)り散りしくに 何故ここまでと対話を始む

妄執の赤 霜月もサルビアよ咲き継ぎ止まぬ何に競ふか



   「寒空」

冬空の蒼青(あおあお)としてけふ一つ越ゆるべき山ダブルブッキング

寒空にストッキングにて出陣のヒールは燃ゆる愛の嵐に

シナプスの壊るる音か耳近くザキッと白き電流異常

夜さ朝なかえりみて安心のひとつなく脳に鋭き警告音す

手短かに詣づるばかりの父の墓 木枯しチリと風鈴を押す

2008年より  「墓石の前」 「みな大変だ」

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   「墓石の前」

合はす掌はひとつの世界「大丈夫?」とか「あのね」とか長き祈りの

汝が墓は庭石菖(にわぜきしょう)に囲まれて 揺るる青色 日差し淡きに

ふたつなき儚き色よ 頂きし柿と楓(ふう)の葉 墓参のみやげ

想像の土を撫で上げ子らの面 残しおきたし 知らず涙す

すずかけの朽葉の道に面差しの似る姿あり夢にも見ずば



   「みな大変だ」

香に充つるこの清明の秋日の置き去られたる今年は半月 ==祥月命日

探しゆく音の極北 繁茂するジャングルに食む己の言葉 ==次男の仕事

究極の「神の一撃」数理にて挑みいる日もサイコロ振らる

ぽっかりと空くとふ穴はやれやれと寝(い)ねむとするに正に現はる

ヘッドフォンは音の横溢 魂の慰撫を失ふ片耳壊れて ==純音の世界に浸っていたが耳鳴りの邪魔

囀りの澄み渡る朝 祈り湧く 鳥のひと日も楽しからめと

2008年より  「旅の空」 「阿蘇五嶽」

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   「旅の空」

物の理や海碧くして空蒼し 前線の雲上下に分つも

深きより隆起せる峰の先端を機窓に眺む 島国とふもの

四国のみ雲に覆はれ山々のくぼむところにダム湖の光る

半島に風車の並ぶ佐多岬 大分までは深き道なり

ここよりの眺め墨絵に描きたるは無からむ海と久住連山

山ひだに紅葉兆して延々と高圧電流運ばれてゆく



   「阿蘇五嶽」

一の子の休らふところ仏寝るカルデラ上空 五色の畑地

モダンなる巨人の風車一機のみが風をとらへて大車輪見す

去年(こぞ)の旅子と巡りしか外輪山 日暮れは去るらむ空港に降る

名をば呼ぶ 心傾け空しき名 空しけれどもわが恃む綱

呼びかくるその名無ければ良平の心も迷はむただ塞き上げて 
  ==半田良平「幸木」みんなみの空に向かひて吾子の名を幾たび喚(よ)ばば心足りなむ

子らと居てコスモス畑幸せの夢の如くに時に埋もれき

2008年より  「九月、それまでの日々」 「神か科学か」

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   「九月、それまでの日々」

朝顔のひとつ辛くも拠りて咲くひまはりの茎立ち枯るる辺に

青空に血の色かざすサルビアか カッと目を剥く朱(あけ)のペチュニア

かの夏に汝が見上げしとふ向日葵の育つを見れば悲しかりけり

わが内に今浮かぶことあの日々に汝が思ひたるそのことならむ

バス停の無人のベンチメモを書く仕事帰りに二十分待てば



   「神か科学か」

海中にヒトの生きたる時期あると読みしよりわが潜水泳法

拠るべなき裸のサルは実を求め草より糸を紡ぎまとひぬ

偶然のひとつ起こりて確定すすなはち事実かく虫を打つ

仕込まれし宇宙の種の育ちしとかく識る世紀に生まれたるかな

粛々と二十一世紀生きてゆく「神」解かれゆく未曾有の日々に

プリンタはギャーティギャーティ声明(しょうみょう)す 生死無ければ救ひも有らじ

サギも来て平等院に集ふ音幸あれかしと哀れ言の葉

2008年より  「刈られしもの」 「子育て終了」 「夏の放心」

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   「刈られしもの」

夕まぐれすすり泣くがに群るる百合 明日は刈らるる身と知る白か

明け鴉ハローハローと不思議なり誰か誰かが要請すらし

朝晴れて高砂百合を倒す音 小暗き樹間 白き飾りを

じっと見る九月の暦「いつ決めた?」心に問ひつ数字の列を



   「子育て終了」

ドンとくる打ち上げ花火夕顔は支柱を越えて軽やかに伸ぶ

明日は切るあの赤松に絡む葛末の子にして支へ合ひしが

遠花火華やぎのあと轟けり苦し楽しき子育て終はる



   「夏の放心」

クマゼミの必死と競ふ青き青 雲眩くて風ひとつ鳴る

水滴を含みしままの朝風にヨルガオの張る十のアンテナ

嗚呼真白 幾万トンの雲の山ちひさき頭ひとつ生まれぬ
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