木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2013年07月

行き先不明 2013年より(4)『67歳の春彼岸まで』~「机に拠る」「応需短歌~佐藤佐太郎の真似」

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   「机に拠る」

鈍色の空はさながら冬の底望む気持も失せて日の過ぐ

絵描きらの腕も及ばじ色の海デジタル画面に溢るる具象

パソコンの画面に虹を捉ふるは視覚細胞数字を見るのか

わが歌に習ひも性も現るる不注意にして愚かしきミス

佐太郎の抒情の歌をごくごくと呑みこみいつか芽吹き青かれ





   「応需短歌~佐藤佐太郎の真似」

梅待月上弦八日目冴え冴えと青き夜空の中天の路

小さきもの集めてひとの喜びの木切れや小石宝石お札

動物の眠りに落ちてしばし不動 ガラスの眼(まなこ)開け動き出す

ひとつ鴨水脈(みお)どこまでも乱されぬ江津湖に春は名のみなるらし

恋に落ち活性化せる脳のさま すべてMRIにて見通されている
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行き先不明 2013年より(3)『67歳の春彼岸まで』~「大寒」「大寒の白クレマチス」「冬クレマチス更なる進化」

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   「大寒」

大寒の十三夜月しみじみと何もなき庭眺めてをるらん

子に詫びることのみ浮かぶ大寒の小望月照るはみだすごとく

「わが仲間細胞たちよ今はしも死にゆく刻ぞ」引き連れ去りぬ

日あたりに烏のむくろてらてらと見事な織りの羽根をたたみて

春を待つ笹鳴き聞きし生垣に団欒なからむ吹雪く今宵は



   「大寒の白クレマチス」

大寒より蕾開きしクレマチス末枯(すが)れたる葉の黒きを配して

かそけくも花の生垣二週間 冬クレマチス白く地に敷く

真白さの雪のひとひらずつ散りて冬クレマチス春立つ日まで

四季のなか放り込まれて十五度の寒暖の差に人の厭詛や

夏と冬日々交替もよからむか寒さに感謝暑さ有り難し



   「冬クレマチス更なる進化」

クレマチスに大寒咲きあり立春にはなびら舞ひ初め蕊のみ残る

花弁散り黄の雄しべ失せ ふと見ればぽんぽんのごとなほみなぎりて

雌蕊より白き花珠生(はなたまあ)れいでて冬クレマチス命渾身

ふはふはとまろきが三つそれぞれに涸れし花弁の支へを受けて
 
時過ぎて冬クレマチスの冠毛の疎らになりぬ箒のごとく
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行き先不明 2013年より(2)『67歳の春彼岸まで』~「ミントグリーン」「小学生」「寒のクレマチス」「白い建物」

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   「ミントグリーン」

昔子に買ひしポトスの葉先から雫あふれて命黄緑

わが与ふ寒の水にも喜びてミントグリーンのポトス長らふ

夫とわれ心無きかに罵りてミントグリーンのポトスの困惑



   「小学生」

朝日子に大きプリズム差し出せばへやの宇宙に虹を浮かせり

平行四辺形の面積 底辺に高さをかけてマジックのごとし

工作の木の本立てに丸窓を糸鋸とやらに母と開けてし

絞り染めの糸を解けば紅の中瞳開きて無辜の白花

道路より雪の階段ポストまでいくつか降りて昔津軽に



   「寒のクレマチス」

寒の空に見たき望月なほ七日 冬の鈴蘭もどきも待つか

冬のため変異させたる鉄線花 寒の日々こそ鈴蘭めかす

冬の軒に蔓をめぐらすクレマチス白き花びらこれ見よと反る

金色に艶めく蜜柑 冬ざれし土塀にたわわ花束のごと

山茶花の雪洞(あんどん)仕立て六尺余 稀なる花つき交番横に



   「白い建物」

手入れされ窓静かなるマンションと隣る墓苑の然るべき石

レインボーブリッジに白き石の群れ意匠凝らしてしみひとつなし

屋上まで高層ビルに乱れなく心貧しきわれは悲しむ

大寒の車窓に流るる松並木無駄なき自然の清き枝ぶり
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行き先不明 2013年より(1)『67歳の春彼岸まで』~「失望の年?」 「あの人この人」 「運の尽き」

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   「失望の年?」

年末に初夢宝くじ少し買ひしばかりに失望の年

ただ白き紙美しく括られて今年も荒野広がるペイジ

ふたつほどがつがり抱きローソンへ晴れ着のはたち敏捷のさま

オリオンをキリリと飾る冬空を覗けばまろし青き夜の底

北海に泳ぎてありし紅鮭の冷凍パックなり一瞬にして

手すさびに薬指にてアイフォンの魔法の画面するりと捲る



   「あの人この人」

同ひ歳の師の歌書隙のあらざりてこれはいかんと身仕舞正す

戯れに夫の我がため買ひくれし文字一つ無き砂漠の手帖

メル友も寝つきたるらし二十五時ブログもサイトも口を閉ざしぬ

北風の何と言ふ子か角々でぎしぎし遊ぶ古家をめぐり



   「運の尽き」

運尽きて糧を得る術断たるれば節約すれども貧へとすべる

災ひの熾きにいぶされ往(い)なしつつ生命は失ふかがよふ力

わたくしめ独語が専門無口にて独り言すらあらぬ独活(うど)にて

スマートさ軽さ明るさ重さなく独活と言はるる能なき生まれ

そもそもが軽き我なれせめてもの洒脱にたたく軽口もなし
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余暇余剰 2012年(26) 『2012年の冬至まで』~「老いる日々」「百円バス」 「世間」

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   「老いる日々」

待ちぼうけ海路の日和ざわざわとをつとかつまか生き残り賭く

老眼に許してをりし隅々の塵灰色に西日の射角

新しき命は生るれ 去るわれら長寿百年めざせどいつか

瞼閉ぢなほしずしずと湧きこぼる冬涙雨金柑に降る



   「百円バス」

考へは休むに似たりバス降りて光なき空おろおろ歩む ==cf. 馬鹿の考え休むに似たり

電線の警告空が発しいて見回してみる霜寒の朝

蔦の葉の紅の図案をつい眺め信号赤にわがバス逃す

生温(なまぬる)き凩激し人絶えて乗り合ひバスを待つ月忌日




   「世間」

政権の右傾化支ふる若き声ネットの中の居場所しか無き

カラオケの箱根の山に轟ける唄声の快わがはまるやも

雪と雨のあはひのミスド小女子の小声の会話嗚咽へと変はる ==ミスタードーナッツ

天空の鏡面ビルに映るバスの窓にわが顔あり見詰め合ふ ==ビルの谷の首都高速
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ギャラリー
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(2)『76歳の春彼岸まで』~~「希望のころ」「核の脅し」
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