木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2014年12月

☆経年不変に 2014年より(29)『69歳の冬至まで』~~ 「初ビートルズ2」「初ビートルズ3」

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   「初ビートルズ2」

ずらずらと懊悩這ひ出でホラーめくスマホ忘れは制御失ふ

氷上をすべるかのバスやすやすと時空わたりて悩み変わらず

義妹らと袂分かたん頼りたる弟(ひと)の死にたる深みを見詰む

花を観よ桃はいかがと旅立ちを促す文言読みてうなだる

見下ろせる蟻のマンション隙間なる路の細くて驟雨に翳る

増設の首都高の道断たれゐてフラッシュバック阪神瓦解図

東京の地下を降りゆくほどにG増せばや思ひ哲学的に

月代(つきしろ)の昨夜はちらりと覗きしに熱海に重き海と空なり

五月雨に空なく海なくあを色を恋ふるまなこに緑山迫る

ずしずしと雨戸叩かれこもり居て『砂の女』めき梅雨の始まる



   「初ビートルズ3」

百年はもつべき家を重機もてはや轟かす悲鳴エントロピー

思春期の扉ひらけば猪突なり恋のシステム張り巡らされゐる

あんなにも支配されゐて恋まみれ早乙女花にも生の策略 ==とは「へくそかずら」

奔りたり知らざるままに生殖の一途のあとの寂しくはなし

侮れぬ激辛ラーメン失へる味覚もどりて鬱より救はる

ゆつくりと動けど垂るる汗の塩ひと舐め旨きわが太極拳

省くべき炭水化物摂るべきは豆腐と野菜一キロ減量

コーヒーも敵はぬ睡魔に沈みつつふとも病の水井さん思ふ

黒道さんダークに詠ふ人なれど短歌サイトの指導穏しき

一本の強き念ある歌となせ雛の口腔燃えたつを見よ
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経年不変に 2014年より(28)『69歳の冬至まで』~~「おもわず苦笑」「まじめに人生」「初ビートルズ1」

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   「おもわず苦笑」

鈴蘭のオーデコロンなどよからむか銀色斑入りの髪伸ばさむと

戦後より萌したるらむ自意識と教養そろへて老女歌人群

五ヶ月児鼻に小さき皺寄せて寝返り成功たまらぬ笑ひ

コーヒーを知り初めしころ眩暈するほど強く甘くて一目惚れせし

和やかにニアミス避けて尊厳死がラストスパート夫婦の話題

あの頃に「お祭りマンボ」流行りたるわけ気になれど遅れじカラオケ



   「まじめに人生」

その意味をわれら知るやら「人も蟻も星の子」これを輪廻とぞ言へ

実篤の言葉浮かべり美しく並ぶ瓦に雨の光りて ==「仲良きは美しきかな」

太極拳お腹の前の空間に両腕上下に自(じ)が魂抱ふ 

語りかけるマルセリーノに主の応へ給ふを書きぬ初めての詩に ==スペイン映画「汚れなきいたずら」



   「初ビートルズ1」

吾を駆るリズムとサウンドしたたれる緑の道なりファウストもどき

眼に緑初ビートルズつむじ風倦みし心もこの世を愛す

ビル群の並ぶ空の端CDにポールかレノンか浴びて運ばる

笛吹市の古き民宿夢のごと湯より戻れば葡萄冷えゐき

ゼブラゾーンの真上に濃淡分岐あり左右の空より陽と雨と落つ

名にし負ふ泰山木の花色の匂ひてをらむ燕飛び交ふ

香り降る木下の道を酔ふて過ぐたれを待ちてやかく焔(ほむら)立つ 

キャンパスを巡る花房薫香のニセアカシアといふはまことか

呼ばれたる心地に見つく朝顔の青き目見(まみ)なり見つめ合ひたり

南瓜の葉陰の家居声そろへ雀のうから屋根を楽しむ
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経年不変に 2014年より(27)『69歳の冬至まで』~~「皐月の思惟」

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   「皐月の思惟」

回りゆく地球の仕組み止むなくてたちまち暗し緑と茅花と

老い人の植ゑゐる何かたちまちに人参なすびモロコシも出づ

吾といふ竜巻襲来ダンゴムシの団居(まどゐ)の夢を壊してしまひぬ 

日に幾度すいとガラス戸よぎる影尾のみ見わけて猫の道なり

星なくて機体ぽつんと光る夜墨一色の蓋あるごとし

実際は空一杯に星々の燦然と照る粒子に満ちて

そんなことが明日起こるとは知らぬまま蟻も子供も時の往くまま

文明の滅びの跡を覆ふとふ蔦ハイウェイの壁に清けし

しげりたる蔦のみどり葉ながれ落ち新宿変容 固きがやはらに

隣席の男タブレットを急かせゐてときに見やりぬ皐月の緑を

予報士の回す地球に都市と海 砂漠と森の静かならざる

移り来て三年の庭についに来ぬプリマドンナよもぢずり一花

待たるるを知りしやもぢずり不可思議の旅経たるらむこの庭に下る

歌会に寄り合ふ頭グレーのみ文化支へてややに気取れる

吾もまた気取れるひとり気合入れカットとマニュキアローズ香らす
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ギャラリー
  • 遂にここまで来てしまった 2023年より(4)『77歳の夏至まで』~~「憂き世」「思い見る世」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(6)『76歳の夏至まで』〜〜「強制終了」「神との友情」「一網打尽」「対消滅」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(3)『76歳の春彼岸まで』~~ 「終焉の気配」「春の気配ある」「かくりみの気配」
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(2)『76歳の春彼岸まで』~~「希望のころ」「核の脅し」
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