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「諧謔」
鏡に見る写真に写る見慣れたる二種類の顔わたしだといふ
誰何(すいか)され御免ねと逃ぐ黒犬の見張れる庭に白梅咲きて
落としたる柿の枝しなふを若葉ごと曲げて折り曲げゴリラの寝床
「繰り返し」
今世紀も百鬼夜行に明け暮れてダーウィン公認サバイバル模様
わかみどりの燈台草の絨毯に黄金の華はじける五月
わびと聞く利休待庵(たいあん)なにも無しただ人として茶の緑のむ
画面よりふとあげし眼にまどか月 日永の窓に宵闇香る
立夏より桐の花色まだまだとかけ登りいく明日も晴れなり
咲きみちて薔薇の枝(え)切りたる一山を捨つれば残るはなびら白々
「同じ轍を踏む」
四十年の変はらぬ諍ひ夫との議論の先は千も知りつつ
ひび割れのガラスの球に生まれ来るみどり児憂れふ空青けれど
悲しみに縋りつかれてリアルさに死も否めざる限界に対す
悲しみの深さ思へば救ひなしふはふはの母消えたる子らの
古稀のくる日々を根詰め糸紡ぐ吾が言の葉の流れに任し
この老いの時と言葉をむち打たむ終はりの日まで休まざるべし
「春の名残りの」
ほの柔き和菓子の雌しべ思はする母子草よけ布団干すなり
このしばしふはり地表にかけわたすヴェール早緑日々濃くならむ
夕光の上総の田の面極楽もかくやと我の基準の甘し
雲上は知らず水張田光るなし寝たがえし首揉みても空し
あをによし奈良の桜も匂ふらむ憶ひの海に莞爾と咲ける
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「諧謔」
鏡に見る写真に写る見慣れたる二種類の顔わたしだといふ
誰何(すいか)され御免ねと逃ぐ黒犬の見張れる庭に白梅咲きて
落としたる柿の枝しなふを若葉ごと曲げて折り曲げゴリラの寝床
「繰り返し」
今世紀も百鬼夜行に明け暮れてダーウィン公認サバイバル模様
わかみどりの燈台草の絨毯に黄金の華はじける五月
わびと聞く利休待庵(たいあん)なにも無しただ人として茶の緑のむ
画面よりふとあげし眼にまどか月 日永の窓に宵闇香る
立夏より桐の花色まだまだとかけ登りいく明日も晴れなり
咲きみちて薔薇の枝(え)切りたる一山を捨つれば残るはなびら白々
「同じ轍を踏む」
四十年の変はらぬ諍ひ夫との議論の先は千も知りつつ
ひび割れのガラスの球に生まれ来るみどり児憂れふ空青けれど
悲しみに縋りつかれてリアルさに死も否めざる限界に対す
悲しみの深さ思へば救ひなしふはふはの母消えたる子らの
古稀のくる日々を根詰め糸紡ぐ吾が言の葉の流れに任し
この老いの時と言葉をむち打たむ終はりの日まで休まざるべし
「春の名残りの」
ほの柔き和菓子の雌しべ思はする母子草よけ布団干すなり
このしばしふはり地表にかけわたすヴェール早緑日々濃くならむ
夕光の上総の田の面極楽もかくやと我の基準の甘し
雲上は知らず水張田光るなし寝たがえし首揉みても空し
あをによし奈良の桜も匂ふらむ憶ひの海に莞爾と咲ける
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