木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2017年01月

果たしてこの道 2016年より(14)『71歳の秋彼岸まで』~~ 「エイチツーオー」「文月尽」「確かならざる」「十七年」

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  「エイチツーオー」 

なみなみと芥とどめぬ河口なり触れてもみたき波の裏おもて

新緑の世界と空を住まはせて川面に水は天より地より

液体と知れど海とふ塊の占むる時空に青の迫力

雨つぶとしぶきのみなり透明の傘に包囲さる音と白にて

窓にある爺やの顔はひたと向く畑のナスカキブドウと金魚

金魚さんと布袋葵の丸き腹むかしの夏の浮かぶ水甕



  「戦略」

球根のモントプレチア剛けれどカヤに犯され陣地を失ふ

形状の似たるカヤの葉すぐ千切る 根は強靭とて戦略優る

あのカヤめモントプレチアもどきめと詠みて即出づ いざ退治せん

一様に刈り込みたるに早や青くすくすくと伸ぶこれぞカヤなり

盆花と思ひてカヤを茂らせて思へば去年も花少なかり



  「文月尽」

ギヤマンを包みて共に運ばれし白詰草ぞ心して踏む

露の草 庭の絶滅危惧種としきりりと碧し共に越し来て

樹の花の香り満たせる山のバス吐息つくごと降ろされ日長

闇につと浮かぶ七色 火と時を制し変化す 爆音のどかに

のうぜんは葉のみとなれり このまえは暁色の蕾なりしが

文月尽むうつと朝日押し寄すも雷光怒号し驟雨に圧さる

雨戸閉め今や遅しと待ち構ふ迷走台風意思あるやなし



  「確かならざる」

かく出会ふこれなる生者ひとりまた一人必ず消ゆと思へば

生物の五感が築くこの世こそ共同幻想たしかさもどき

確かさの石橋叩きなりたちを理路美しく進む果てこそ

今ははや他界をリアルとみなすなり偶然必然この本に遭ふ

葛の花眺めつ聴きつ蝉声の海鳴り宇宙背景輻射

妖精の動き思はす量子場も集合すれば確定となる

幸と福持つべき我ら寛恕たる整合性の仕組みあるべし


  「十七年」

仏道へ導きくれなむ君なりと十七年前尼僧に言はれし

もう葉月 とまどひをれば文出でく十七年後に如何にせよとて

わが惜しむ亡き子よ何を言ひたきか とつくに輪廻廻り終へしか

死の関を越えて浄土にいます子よ幻想の世を振り返りしか

安命せよ見守りくるる君なると相棒われを諭しくれたり

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果たしてこの道 2016年より(13)『71歳の秋彼岸まで』~~「スカイツリーに登る」「こころ震へ」

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  「スカイツリーに登る」

八方の屋根を見下ろすスカイツリー周りまはりて解脱に遠し

売らんかな昔の日本キューピーさん叔母にもらひし日も直立に

両国にマックを食みてシーボルトの熱に打たるる江戸博物館



  「こころ震へ」

しんしんと蒼穹はてなき夏至の夕抱くわが身の故なくたふとし

ビッグバンありて始まる憂き世とふ最初の水素われに在るやも

エナジーより誰の関与かかりそめに質量生ず綿雲のなか

雪片を統ぶる微小の法則下 流せし涙いつか輝く

混沌と見ゆるものにもミクロへと無限に反復せるパタンあり

電算機なる脳の内意識より自我は生れたり偶然の海へ

苦と思ひ不安へ落ちるらせんの世救ひの仕組みまだ知らされず

古障子を写経の反故に繕へば空と色とがはなれてしまひぬ

物の理の奥にあるらむ不可視なるコインの表を空とぞ呼ぶか

桃や魚粛々と食む摂り入るる原子の内実ほとんど空とて

ふと目覚め眠らずをれば与えらるあるべき摂理を詠ふと定む

ふと触るるわが肩に骨硬くして辛くもゆるく連結されゆく

幽霊のやうなる粒子のふるまひの示す向かうに辿りつく日は

こともなし心開けば抱かれてゐるよひしひし無限の懐

末つ子が実り多き日と言ひくれし墓所の会話を風よ聴きしか

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果たしてこの道 2016年より(12)『71歳の秋彼岸まで』~~ 「盆灯りを消す」「新しい志向」「時雨というには激し」「絣柄の空」

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 「盆灯りを消す」

他界とは如何なるさまか面影に面輪を重ね盆灯り消す

夜を込めて風騒ぎたる朝の庭ゆらりと白き百合笑ひ合ふ

白百合を指に挟みて顔寄せぬキスの仕草と思ひつつ嗅ぐ

一粒の米の実りとならむ花 無数に並びて薫り佳しとぞ

初めての詠草無知にて間違ひし上弦下弦今もミスする

悲鳴あげセスジスズメのイモムシを転がし転がしヤブカラシ抜く

藪枯らし抜けば餌(え)の無き芋虫のあはれどぎつし今夏も出逢ふ



  「新しい志向」

不安ゆゑ思ひ迷ひて不運呼ぶ見るは不可能、不確定のみ

さに非ず まつさらにして想ひ描く力の可とする新規巻き直し

真奥の愛ある願ひ それのみが行動指針臆すは無用と



  「時雨というには激し」

雲去りて夫に内緒の散歩すとピンポイント豪雨縫ひて小走り

ゲリラ豪雨を運良く躱し館山へ進む駅ごと濡れと乾きと

雨すぎて養老川の注ぐ先東京湾に船の動く見ゆ

シナモンの香にふと心浮き立つも十二階より黒き海の色

髪乱し汗だくすつぴんのわれを晒す 吾子のTシャツせめても盾に

海見むと駅を巡れば同輩ら帽子かむりてチラシをめくる

気ままなる旅と出でしが むら雲の気ままのスリルのみに戻り来



 「絣柄の空」

絣柄めき織り込まる長月の薄き白雲青き布地に

秋空と岡の稜線の距離著るしデジタル画面の嘘の絵のごと

不吉とも黒雲厚き背後より群青の空は世を覗き込む

名にし負ふ諸草いのち手に負へず熱湯毒薬もろもろ殺傷

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果たしてこの道 2016年より(11)『71歳の秋彼岸まで』~~ 「晩夏 薫れる」「様々思い出す」「憧憬の家」

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 「晩夏 薫れる」

樹の花の香り満たせるバスを降る吐息するごと吐き出されたり

あらためて少女の香り踏みてみる白詰草のいはれを知りて

かぐはしきトウネズミモチの花房を覆ひてあまねく葛の大葉は

白き香の羽衣ジャスミン伸びすぎの枝はざつくり甕に投げ入れ

一本の線に与ふる墨の美を想ふ一心ゆるゆる流る



 「様々思い出す」

ディズニーの『バンビ』に息のみけらけらと笑ふ幼よ尊し夢の間

見ぬふりに何も言はざり初めての負けに隠れて泣く子の背なを

子とともに信じてゐたりトトロの夜 幾度待ちしか明(あか)き猫バス

数珠珊瑚(ジュズサンゴ)の真紅の実のことどうのこの息子夫婦とスマホに語る

六歳の弟 初代ゴジラ見て顔真つ青に帰り来しこと

子と孫に触れ合ふ一刻はや過ぎてふはりと肩に羽毛の残る



 「憧憬の家」

君のためばかりではなく憧憬の家探さなむ必ず叶へむ

仏道へ導きくれなむ君なりと十七年前尼僧に言はれし

青々とわが茂らせする雑草に大事のツユクサ淘汰されゆく

露の草 庭の絶滅危惧種とし きりりと碧し共に越し来て

白髪(しらかみ)のわが生日の月や如何 花びら思はすつくよみをとこ ==月の異名

夕五時の蒼穹はてなく愛しみて抱くわが身の故なく尊し

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ギャラリー
  • 遂にここまで来てしまった 2023年より(4)『77歳の夏至まで』~~「憂き世」「思い見る世」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(7、8)『77歳の秋彼岸まで』~~「座学」「混乱中」「日本の記憶」「赤虫王国」
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(6)『76歳の夏至まで』〜〜「強制終了」「神との友情」「一網打尽」「対消滅」
  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(3)『76歳の春彼岸まで』~~ 「終焉の気配」「春の気配ある」「かくりみの気配」
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  • ドイツより地球の風に飛び移る 2022年より(2)『76歳の春彼岸まで』~~「希望のころ」「核の脅し」
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