木原東子全短歌 続

二〇〇〇年より哀歌集を書く傍ら、二〇〇六年より「国民文学」歌人御供平佶に師事、二〇一一年からは歌人久々湊盈子にも薫陶を受けて、個性的かつ洗練された歌風を目指して作歌するものの、やがて国外に逃れることとなる。 隠身(かくりみ)の大存在の謎を追求する歌風へと変転し、「・・・」とうそぶく。カッコに入れる言葉の発見は難しい。

2018年07月

往くべきや、然り往くべし 2018年より(3)『72歳の春彼岸まで』~~ 「放浪の決意」「善行」「いつまた桜を」

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  「放浪の決意」

弥生なり南風(はえ)に押されて旅支度 おさらば友よ行き先未定

木の陰にいつもの葉先顔を出す 今年は咲くやら赤きチューリップ

丸木より掘り出されたる小ぶりの盆 母の撫でたる跡か光れる

春嵐春雨つづく菜園に緑見えねど蠢きをらむ

春雨をたつぷり吸ひて咲きみつるスノードロップ 今ぞ切り時

実生(みしょう)より育て咲かせて伐り倒す蝋梅の枝(え)の薫香著(し)るし

常世(とこよ)へと母往きませるその骨の薄きを三ひら なほわが旅に

華やげる電子の海の泡沫(うたかた)のうはさ話に鋭きA1の耳

春ゆゑと思はむとして哀しみか不安とも知れず 鴉叫べば

指の痛み自筆苦になりスマホへと流行りの録音 遺す言葉は



  「善行」

春一番の花ならんとや思ふらし丈を揃へて三階草群る

下ろしたる雛とお道具ちかぢかと畳の上にて息づき始む

本当に生かして殺すが理屈なら猫の仔抱きあなたを憎む

菜の花と蕗の薹ある冷蔵庫 につと春めくビタミン笑顔

太陽が追ひつくまでは繊月の独り舞台なり 桜待ちつつ

春の花とりどり咲ける屋敷内いかにや前世善行なせしか



  「いつまた桜を」

弟の誕生日ゆゑお彼岸の電車乗り継ぎ墓参 初桜

薄墨にゆるむ蕾に染められて円かなるかな彼岸すぎの世

むくつけき貧しき男一人にて花の下行く 心の誘ふか

われも一人 友らに向かひ花の香の有る無し言へどそよ、とぞ風は

平成の最後の花見ならんかも 摂理のままに花弁の落つ

外国の地に山椿根付くやら 友に送ると帽子に集む

耕人のゐる花の下 とき満ちて水田となれば花びら浮くらむ

一人舞ふ太極拳を悲しまず 「桜」公園神と手を取り

神遊び 名なき広場の唯我にて醍醐の桜ならねど嬉し

ぐうるりとスマホかざしてビデオ撮る今年限りの天と花とを

川上の桜散り初めちりぢりに橋の下ゆく遊び遊びて

川の面を染めつつ進む花びらは遊びがてらに文様なしゆく

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往くべきや、然り往くべし 2018年より(2)『72歳の春彼岸まで』~~ 「春待ち仕事」「春浅き散歩」「時をさ迷う」「見ず聞かず」「氷上に羽生えて」

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  「春待ち仕事」

立春は明日とふ庭より水仙と蝋梅の香を廊下に移す

寒の内に三つ咲きたる水仙を伐ればなほ見ゆ二つの莟

傘回し雫弾きて春や立つ 氷のお題もらひて困る

母の絵の姫りんごの艶 大写し画面に読みぬ「小鳥は来しや」と

冷ゆる朝花びら見つく 小さき紅の麒麟草などなどか好みて

水仙の蕾開けど紅の芯褪せゐて香る かはやにはつか

南向きの門をぬくぬく出で 右へ曲がればすなはち寒風生ず

繰りかへし変化すれども同じ形見上ぐる人類 今宵はスーパー

有明の遠き月かげ 何やらむ真下に光を一つ従へ



  「春浅き散歩」

「お、咲いてる」空の瞳が コンビニにコーヒー飲まんと如月往けば

似たるあを比べむと凝る犬のふぐり 二月の空より紫強し

孫とよく来たりし公園 清らかに刈られてどこかの犬と我のみ

鳥声は如月半ばの早春賦 ベンチにしばしスマホを使う

仏の座いまだ咲かぬに木に色を灯し初めたる梅の仲間ら

萌黄色のスカーフに合ふチュニックに蝋梅見上げ春へときめく



  「時をさ迷う」

脳中に浮かぶ白紙の一切れの無と押しくらべ 負けの込み来て

父の背に纏はりコラと叱られて幸せなりし吾が甘え下手

先輩のふるまひくれし珈琲の忘れがたくて「結婚すべきだった?」

いつまでも落ちては落つるゆきひらを明け暮れ見上ぐ 舞ひて遊ぶを

「猫坂」とふ小説書きて偲びたり あるとき猫の命と触れ合ひ

成し遂げしこと何も無し 夢を見て過ごせし日々のありて哀しも

暁の空の色こそ悲しけれ つらき別れの記憶もなきに



  「見ず聞かず」

鏡にて我を見つめて見えるもの 見えざるものも神の子ばかり

仰ぎつつ歩きつつにも会話する 心安くもあまねく在はす

見ず聞かず心足らへる色や音 かの世に心開きたる友ゐて

しんしんと墨絵の世界描かれて花のまぼろし 薄紅色を

里の灯は永遠(とわ)なる慰撫と招かれて暮れ惑ひたる木したを急ぐ

実のものも小鳥も絶えて凍て空に叫声太き影の羽ばたき

ヒリヒリの続く舌先 何か気に入らぬことあるや体に問へり



  「氷上に羽生えて」

金メダルの夢の破れてゐはせぬか ファンならねど平静ならず

大き夢吾も持てども途絶せむこと確かにて許してばかり

何回転すれば足れるかオリンピアに 我はもどせりただの目眩に

羽生えてふはり着氷するまでの心いかにぞ澄みて無ならむ

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